べスへ

ようやく任地へ着いた。どこなのかを書けないのはいつものこと。

君とジュニアは、かわりはないかい? こちらは少なくとも送還にならない程度には健康だ。もっとも、なにか患ったところで、生半可なことじゃあ帰してはもらえないだろうがね。

こちらは想像していたより幾分は穏やかな気候だが、今ちょうど乾季だそうで、陽射しがやたらジリジリときついことと言ったら! 雨が降らないと大地は埃っぽくて、基地全体が灰色の帳で覆われているようになる。それでも上空から見下ろすと、広大な茶畑は瑞々しい緑なのが不思議でしょうがない。伏流水があるせいかな。雨期にはとても豊かな水に恵まれるようだけれど、今は陽射しのせいで、咽喉がすぐからからになって困るよ。いつも水筒を持ち歩くのが習慣になってしまった。

そちらは新緑の春、もうすぐ芝刈りも必要な時期に入るだろうか。手間なら誰か近所の子供たちにでも安く頼めるといいのだが。ジュニアにはまだ無理だな。

いま乗ってるのは13番機(これくらいは書いてもいいだろう?)。例によって誰も乗りたがらない機体を自分で選んだ。賭事に身も心ものめり込んでた親父なら、機番を聞いただけで気絶しただろうがね。要は心の持ち方ひとつさ。コインの裏表は同じ確率。石が減ってりゃライターも点かない。カラスが鳴こうが黒猫が横切ろうが。鏡だって割れることもあるさ。いや待てよ、でも縁起の悪い機番を選んで乗るってのが、逆に俺のジンクスになってるんだろうか。

多少でも不安になったり、落ち着かない気分の時は君が勧めてくれたとおりに、深呼吸してから基地の食堂でミルクを一杯もらって飲むようにしている。効果はてきめんだ。

そうそう、ミルクといえば、ここじゃあ牛たちが信じられないくらい大きな顔でのさばっていて、連中の邪魔をすることが公式に禁じられている。(びっくり!)  現地でトラブルを起したくなけりゃ、そうするよりないとか。世界は広い。

中に一頭、白くて背中の瘤もめだつ牡牛がいて、やつの名前は『ブラフマン少将』というんだ。なぜ少将かといえば、もちろん隊司令の大佐もかなわない閣下だからさ。(先日、大佐の専用車置き場に閣下がぺったりと座り込んだ。丸一日も!)  たぶん、この辺りにいる牛たちのリーダーなんだと思う。時々機体にまで寄って来て困ることがあるよ。何を考えてるんだか、およそ戦争とは無縁の深遠な(?!)表情なんだがね。国に返ったらビーフよりチキンのファンになるかも知れないな。君が作ってくれる南部風鶏の煮込みが懐かしい。

毎日全てが灰色の地で、灰色の空を灰色の機体で、灰色の我々が飛んでいる。白や黒の別はなく、赤も黄色もわかりゃしない。敵も味方も全てが灰色。カトリックだろうがプロテスタントだろうが、仏教だろうがヒンズーだろうが、一切が同じように灰色だ。暗闇では全ての猫は灰色の猫。(意味が違うって?)

同封の写真は先日みた野生の象と水牛。ジュニアもまだ字は読めなくても写真ならわかるだろう。パパは水牛や象が歩き回ってるところにいると言ってやってくれ。(どんな顔をするかな)

また時々、おふくろの様子をみてやってくれると助かる。いつも感謝してる。

愛を込めて

マイケル

194×年×月×日  故郷とは違う神々が統べる地にて

追伸  孔雀の飾り羽が手に入ったら土産にしよう。乞う御期待。必ず帰る。



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