ボーファイター、このハセガワ製1/72キットは、以前に豪州仕様で記事にしてますので2機めとなりますな。我ながら、やっぱり結構好きらしい。(^^;  今回のお題は相変わらず「ナイト」塗り、英空軍の夜間作戦用機に塗られた塗色関連の一例。私にしては珍しく(?)、メジャーそのものという夜戦エース@カニンガム少佐機であります。”キャッツ・アイ”カニンガムと称ばれはじめたその当時の機体で御機嫌伺。

機体自体はR2101号機、604中隊内記号ロバートの「R」。この機の写真(手元にあるのは2冊の参考書で小さな不鮮明写真3枚のみ)を見ますと、全面スペシャルナイトの艶消し仕上。背中のアンテナ柱は無い模様。そこでさらにあちこち見ていくと、どうも主翼の7.7mm機銃を装備してないっぽい(量産最初の50機は、翼内機銃を装備せず配備)。排気管も消炎苦瓜タイプどころか、延長されてもいない昼間仕様に見えますし、エンジンカウル上面のインテイクも短くてさらにもうひとつの小型インテイクを背負ってるタイプ。そんなあれこれの特徴から推せば、IFでも本当に生産初期のロット機ということになり、風防部も左右斜めの小窓部に枠の多いタイプじゃなかろうかと(不明瞭)。あとは機首下面にアンテナ柱らしきものあり(搭乗ハッチのラダー部付近から生えてる感じ)、また風防前面に照準環もあり。そこらを適宜ごまかしつつぐだぐだと。(^^;

マーキングは1940年秋の部隊配備当時、主翼下面にまだラウンデルがある姿で(レターはカッティングエッジ社デカール、ラウンデルは色調等の点でアンリミモデルスのを使用)。おそらく後日この下面ラウンデルは塗りつぶされたはず。その後、スコアを重ねるにつれ尾翼にスワスチカを記入してるようです(カッティングエッジのデカールにもあるように、最終で11スコアまで記入。この機体自体は12機め、さらに13機めも落してますが記入されず、その辺は後述)。

ナイトな塗りは、例によって青添加を含め3色調くらい使ってますが、上の画像でわずかにパネル塗り分け化粧がみえるでしょうかしら。ま、その程度ですわ。(^^;  以前のオージー・ボーでの後知恵で、ブリストル空冷エンジン独特のカウル前方への排気収束を再現しようと、各気筒から排気管を糸ハンダつかって伸ばしてはあるんですが(左右各14気筒から2本ずつ、14×2×2=56本@気絶)、まあ完成すると見えませんわな。orz  ギアフェアリング部とカウルを結ぶステーも工作しましたから、一応自己満足ではあります。(^◇^;)

さてこの機が部隊に配備されてカニンガムペアの乗機となったのは1940年の秋。この時期が問題なんですな。その夏までにルフトヴァッフェの空中艦隊をどうにか押し返して英本土を護り@英国の戦い、独逸側も空からの攻撃を夜間爆撃に切り替え済みの頃。「かくも少数の人々」の大活躍もあってどうにかしのいだとは言うものの、怒濤の電撃戦でダンケルクまで押し寄せた独逸軍の勢いはまだまだ強力そのもの、英国はぎりぎりなんとか独りで立ってるような状態。米国は援助はすれどもまだ参戦してませんし、非常に厳しい「Britain Alone」期なんですね。夜毎の空襲に英国民が相当なストレス下にあったと思われる当時ではあります。独逸側は単機や少数機での侵入はもちろん、一度に数百機単位で爆撃機を投入したりもしつつ、電波位置測定システムを積んだパスファインダー機も使って、ロンドンや各工業都市への爆撃を繰り返し行ってきます。戦略目標への夜間大規模爆撃、その怖さは我々日本人もよく身にしみているところ。昼間の「英國の戦い」をしのいだとはいえ、この夜間都市爆撃が行われている時点でまだ英国は依然として危機を脱していない、対抗手段を持たなければ国家の命運にかかわる重大局面だったと思われます。一難去ってまた一難というところ。

その爆撃を阻止するための夜間迎撃と言うと、そもそもはWW1以来の探照灯で照射された敵機を逐う形でしたが、相当に効率がよろしくない(汗)。戦果も全く思うようには揚がらない。そこで英国としては各種(一部は珍妙なのも含みつつ)の夜間迎撃法を次々に試み、中でも既に地上配備で早期警戒に使っていたレーダー装置の機上搭載/実用化を急ぎます。闇の中で光る電波の眼というところ。これがAirborn Interception=空中迎撃の頭文字を冠した一連の電波装置=AIシリーズで、今回のボーに積まれたのがAI-IV、4番目のタイプ(ここまでの機材はどれもイマイチ。IIIはブレニムに積まれたものの、その機体の速度では有効な迎撃ができず)。この「夜空の期待の星」的な機器が、ここではじめて実用域に達するわけです。運用は機上のそれと、地上のより強力な装置との連携により、地上管制で有効距離まで誘導されていく方式。以後長く数十年にわたり世界の空軍で用いられることになる迎撃システムの原型が完成された時でもあります。

さて、いまだに執拗な夜間都市爆撃が行われていたこの時期(有効な迎撃手段を持たない英国、独側被害は無視できる程度という一方的ゲームが初期の様相)、市民の窮状も相当なものだったかと。しかも有効な夜間迎撃ができないという切歯扼腕状態ではさすがに士気も下りましょう。そこに登場して実戦部隊で初の機上レーダー迎撃による確実な戦果をあげたのがカニンガム少佐だったわけですね(1940年11月9日)。これで夜空も守れる、ようやく一矢報いられる、そのブレイクスルー。闇の底にようやく輝いたその光明。

が、この軍事機密の最たるものである機上電波装置を敵に知られるのは困るわけで、当然いろんな手段で秘匿されます。同装置搭載機はドーバーを超えて大陸上空へ侵入するのは禁止。迎撃戦果を揚げても、それをあからさまに発表はできません。でも国民には「いまや夜間空襲も恐れるに足らず!」を知らせたい、各部隊の士気も揚げたい。そこで空軍省が捻り出したのが、"Cat's Eyes"のフレーズ。「我が夜間戦闘機隊には、猫のように夜眼が利くエースがおります。夜の防空もおまかせあれ」云々。

それからわずか1〜2ヶ月の間に、機上レーダー/地上レーダー局の誘導によって英夜戦隊は、それまでの不振が嘘のように、あたかもマジックのごとく急激に戦果を増やしたわけですが、かの有名なニックネームが生まれたのは、そんなわけ。この物語のヒーロー、カニンガム少佐というのが実にタイミングを外さないひとで、なんと天覧試合をやっておりまして。時は1941年5月7日。折しもジョージ六世国王陛下が少佐所属の604中隊を視察、さらに地上迎撃管制システム自体を実地にご覧になった。その夜、おあつらえ向きに侵入してきた独爆撃機が。迎撃側はカニンガム少佐と、この時までに息も合って実によいペアとなってた後席ローンズレイ軍曹の"ロバートの「R」"号。「スターライト」と呼称された地上の迎撃管制局からの指示で的確に接近、有効距離内に入ると機上レーダーに切り替えて敵機の背後に忍び寄ります。さて部隊視察の後は地上局にお越しの陛下。
「陛下、ただいまシステムは全て正常に稼働しておりまして、今ちょうど迎撃の最中でございます。この位置からして、もしかすると今、戸外で夜空を見上げますとそこに双方の機体が見えるかも知れません」
と。で、実際に陛下の御前で炎の尾をひいて落ちていく撃墜戦果が揚げられたわけです。(落された機体は7./KG27所属のハインケルHe111、1G+DR号)

この手の出来事は、士気を高めるのに持ってこいなんですね。苦しい時、辛い時にこんなことが起こってしまう辺りがさすがと言う感じ。ちなみにこの件、これまた英国らしい後日譚もありまして、それによれば
「なぁ、あの機体、カニンガムペアが戦果揚げて弾薬消耗でいったん着陸、第2直は別のペアで再度離陸したじゃないか。で、今度も戦果(またHe111、3./KG55所属)はあげたけれど、反撃喰らって落ちた。時刻と位置と落ちる姿を照らしあわせるとだな、ひょっとすると陛下がご覧になった『炎の尾を引いて落ちる敵機』って、実はうちのボーファイターだったんじゃないかね?」
とも。(あとのペアも脱出に成功して生還)

さてそれからの話。後にバッキンガム宮にV号兵器の直撃を受けた時も含め、終始首都ロンドンを離れずにいらした国王御夫妻。揃っての被災地訪問、視察、激励などなど艱難辛苦の月日を国民とともに支え合って乗り切ったジョージ六世王、そして常に意気軒高で独総統にさえ舌を巻かせたというエリザベス妃ですが、国王は元々あまり頑健な御身ではなく、まさに国難克服に御命を削られたかのように、戦後数年で健康を害されて崩御されてしまいます(1952年)。もう一方の主役たる夜戦ペアは、終戦までにモスキートも駆って総計20機以上のスコアを記録。カニンガム氏のほうは、デハヴィランド社の主任テストパイロットとして長く翼とともに空にあり、英国航空界の重鎮として過ごされた後、2002年に天寿を全うされた模様(奇しくも同年、エリザベス皇太后@ジョージ六世王妃も101歳の御長寿を全うされます)。ローンズレイ氏もまた士官へ昇進、後年には当時の事柄を記した書物を世に出してみえますな。時代は移れども、まるでいにしえの伝説にみる王と騎士の物語の如くに記録された出来事は、それを知る人々にこれからも永く記憶され続けることでありましょう。


<参考文献>

1)John 'Cat's-Eyes' Cunningham ;John Golley著、2002刊(1999初版)、Airlife Classic ISBN 1840373431 今回の機体を駆ったエース御本人の一代記。出自から戦後のあれこれまで網羅。
2)Night Fighter ;CF Rawnsley、Robert Wright著、1998刊(1957初版)、Crecy社Goodallシリーズ ISBN 0907579671 カニンガムさんが操縦、そしてオペレーターがこのローンズレイさん。比較的早い時期に記された回想記。
3)Beaufighter Squadrons IN FOCUS;Simon Parry著、2002刊、Red Kite Publishing社 ISBN 09538061X IN FOCUSシリーズのボー隊本ですがあ、各隊における機体写真をざっと追えるのは勿論、意外に今までスルーされてた機体関連や戦時のお話まで折り込まれてて大吉。
4)Beaufighter Aces of World War 2;Andrew Thomas著、2005刊、Osprey社Aircraft of the AcesシリーズNo.65 ISBN 1841768464 おなじみオスプレイのシリーズ、ボー編。やはりこれが無いとはじまりませんわなぁ。
5)The Bristol Beaufighter;2002刊、SAM出版Modellers Data File 6 ISBN 0953346552 機体のハード面をモデラー向きに解説してくれるシリーズの1冊。ボーを模型でやるなら手元に欲しい本ですが、この本でも今回の「量産最初期の50機」については記載が無いような気配。これだけ高名な夜戦エース・ペアの武勲機なのに、今まで考証がかかってなかったって不思議? ←たぶん英本国ではどなたかやられてましょうが
6)Britain Alone June 1940 to December 1941;2003刊、The Aviation Workshop Publications LTD ISBN 190464306X 「英国は孤立している」と書くと今風?(^◇^;)  実際は、かの御国は毅然として立ってたんですな。その時期の蛇の目機塗装例大全。チャーチル卿の有名なWW2本を読むとさらに理解が深まるかと。
7)The Luftwaffe Bombers' Battle of Britain;2000刊、Crecy社 ISBN 0947554823 この本を読めば、夜間迎撃に工夫を凝らし実に様々な手段を用いた英空軍、その相手たる独逸側からは、くだんの迎撃がどのように見えたかというのを確認できる本。
8)Bristol Beufighter;Jerry Scutts著、2004刊、Crowood社Aviationシリーズ ISBN 1861266669 これもお馴染みクロウッドのヒコーキシリーズ@ハードカバーのボー編。写真が結構「お」なのを含んでて吉。
9)KAMPFFLIEGER Bombers of Luftwaffe July 1940-December 1941;2004年刊、Classic社Luftwaffe Coloursシリーズ ISBN 1903223431 これも7)と同じく、また本書では特に問題のBritain Alone期における撃たれた側の様子が具体的にわかる良書。あるハインケル等は、どうやら背後からタービンライト機に照射されてその随伴夜戦(ハリケーン?)に撃たれたのかもと思われる記載があって相当に興味深いところ。
10)Britain's Air Defences 1939-1945;Dr. A. Price著、2004年刊、Osprey社Eliteシリーズ104 ISBN 1841767107 プライス博士の英国防空システム解説。探照灯/対空砲火/早期警戒システム/迎撃機/地上管制誘導システム/奇天烈発想迎撃構想など、ざっと網羅して明解。

他にネット検索で出てくるレストア中の実機写真なども参考に。特に特徴的なカウル内の排気管やステーの部分は何枚画像をみても把握するのが難しいところではありますが。

(2007年4月6日 初出)



SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ