夜戦仕様の黒いスピットファイア。今回はネタの都合上、いきなりですが妄想話から行きます。例によってフィクションそのものですので悪しからず。ヽ(゚∀。;)ノ

ろじゃーの日記
1942年2月12日(くもり)

今日は『こくぼうゆうしふじんかい』の催しで母さんに連れられて、兄さんと三人で一緒に空軍の基地へ差し入れにいった。母さんの作るシェパーズ・パイとアップル・クランブルさえあれば、基地の人たちはいつでもぼくらを大歓迎してくれる。

戦闘機隊(『きみつじこう』だから基地や部隊の名前は書けない)の隊員さんたちは、おととしの夏にイングランドの空を守りきった勇士達もまざっているんだけれど、今は部隊が夜の当番(?)なので昼間はのんびりしていた。カード遊びやダーツで賭けをしている人たちもいたし、昼寝をしているひとも沢山いたから、戦争してるとは思えないくらいのどかだった。

御近所の何軒かで差し入れを持っていってて(クリスマスにはミンス・パイを持って行った)、今日の僕らは士官食堂へ行く順番。隊長さんをはじめ、ヒゲの立派な(でも本当は凄く若いんだそう)中尉さんも揃って母さんの腕前を褒めてくれた。ヒゲにカスタードをつけながら凄い勢いで食べるからびっくり。あっというまにパイもクランブルもなくなっちゃったけれど、ぼくたちのぶんはまだ家にとってあるから大丈夫。

そのあとは、隊員さんたちが基地で飼ってる犬2匹を連れてきてくれて、兄さんとぼくは広い芝生の上で思いきり犬たちとボールで遊んだり走り回ったりした。天気はあまりよくなかったけれど、気分は爽快ってやつ?

でもそのうちに建物のほうから急いで駆けてくる隊員さんがいて、隊長さんや中尉さんたちは急に深刻な顔つきにかわった。低いサイレンの音が鳴りだして、飛行場のほうでエンジンの音が幾つもうなりだした。飛行機を、僕らの大好きなスピットファイア(これも『きみつじこう』? でもみんな知ってるよね)を見せてほしかったんだけど、そんなムードじゃなかった。あわただしく出撃の準備にかかった隊員さんたちを見送って、ぼくたちは帰ろうとしていた。その時、向こうから芝生の上を1機の黒いスピットファイアがずずーっと滑走で近寄ってきて(『たきしんぐ』っていうんだって)、僕らの目の前でくるっと向きを変えると、操縦席から隊長さんがピシッと敬礼をしてくれた。酸素マスクの向こうで笑ってたと思う。すぐにまた『たきしんぐ』して行ったけれど、もうびっくり。あんなに間近に戦闘機をみたのははじめて。兄さんもくちをぽかんと開けてたっけ。もちろんぼくも。

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同日、ドーバー海峡上空

「こちらシミター・リード。海上に敵艦隊を確認。ただちに味方攻撃機の援護につく。スォード編隊は4時方向にいるオンボロ編隊をカバーしてやれ。視界が悪いから用心しろ。レイピア・リード、君らは10時で撃ちあってる魚雷艇の援護だ。すぐ上からかぶさってる鼻先の黄色いやつらをなんとかしてやれ。ダガー編隊はシミターと共に正面で突込みにかかってるボロ編隊をカバー。目一杯急がないと間に合わんぞ、全機突入!」
「隊長、こりゃまるで戦争みたいですね?」
「まったくだ、シミター2。戦場へようこそ。後ろは頼む、敵にはあの空冷の新型も混ざってるかもしれんぞ」
「ああクソッ、こんなガサガサした野暮な機体塗装、剥がしちまえばもっと速度が出るのに」
「みろよ、敵艦ながら実にとびっきりの別嬪だぜ。ひゅー」
「レイピア・リード、敵戦艦と巡洋艦の対空砲火にも注意しろ。こっちの骨董品みたいな攻撃機と違って奴等の鉄砲は最新型だ」
「了解。まったくたいした花火大会ですぜ。花火は夜と決まってるもんですが──そうか、私らも夜会服姿のままで真っ昼間のこのこ飛んでるんだから──」
「こっちの玄関先なのに、我が海軍はあの魚雷艇たちだけかよ。まさに圧倒的じゃないか、敵艦隊は?」
「無駄口たたいてないで、さっき食ったあの美味いクランブルのぶんだけ仕事しろ! スォード3、左へブレイク!六時に敵機っ!」

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ろじゃーの日記、付け足し。

これは後から聞いた話。兄さんが友達から聞いてきたらしい。あの日、それまでフランスの港にいたドイツの戦艦2隻が、ドーバー海峡を突っ切って帰ろうとしたんだって! 『しゃるんほるすと号』と『ぐないぜなう号』(兄さんがそう言ってた。大西洋の『つーしょーはかいせん』で暴れ回ったんだとか)が、昼間にドーバー海峡を抜けようとするなんて! そこら中にいる敵の船が護衛して、ドイツの空軍も新型機をいっぱい上空援護に出したとか。それで、夜空の当番だった部隊もなにもかも、使えるイギリスの飛行機は全部海峡へ攻撃に行ったらしい。結局、戦艦2隻は海峡を北へ通り抜けちゃったみたい。もっと大きくて強い『びすまるく号』も海戦で沈めたイギリス海軍なのに、今回はいったい何をしてたんだろう? でも空軍はメッサーシュミットをまた何機も撃墜したって兄さんが言ってた。隊長さんもあの黒いスピットファイアで戦果をあげたのかしら。今度行ったら、その時のお話が聞けるといいな。そして隊員さんたちみんなが揃って無事に帰ってきていますように。

#今度基地へ行くとき、隊長さんの帽子を忘れずに返すこと。(あの日の出撃が急すぎて、かぶらせてもらったままになっちゃったから。)

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二十数年後

──というわけでだ、諸君。我が飛行隊のモットーたる『常に備えよ』を体現し、我々よりずっと若い連中がこの国をまもっていたあの時代、その頃に私がみたこの部隊の、あの美しくも勇ましかった黒い機体に敬意を表する意味も含めて、隊のハンター全機をナイト、つまりは黒く塗りたいと思うがどうか。チーム名も既に考えてある。機体の平面形も盛り込んで『ブラック・アローズ』。さあ、反対意見のある者は言ってみろ。ただしこの案をくつがえすには私を納得させないとならんわけだが?── 

懲りずに続く黒い機体ということで(汗)、ナイト装束のスピットファイアであります。40年夏に英國の空を守り抜いた後もいくさは続いているわけで、今度は夜間空襲という形で英本土には炎が絶えません。首都ロンドンも幾度かの戦火にあえぎ、市街の破壊はもちろん多数の人命も失われるという事態。そんな夜の空を守るにあたり、英空軍は多少手が回らなかった時期もあったようで。緒戦における夜間防空機材は高速爆撃機(当時としての)ブレニムに機銃パックを積み込んだIF型、それしか無し。ここにデファイアントやハリケーンの夜戦仕様が加わったり、さらにボーファイターも続くわけですが、どうもイマイチ脚が遅い(汗)。後に機上レーダーが有効に使われ、また俊足のモスキート夜戦が欧州の夜空を制圧するに至るまでの端緒時期なんですな。で、とにかく探照灯で敵機を捉える古典的戦法が第一。そこへ向けてダッシュでかけつけられる機体が必要。もちろん独逸空軍が使用する機体も進化していくのが道理なので、それも見越してとなるとハリケーンでは心もとない。そこで当然のごとくスピットファイアに眼が向けられます。

かくして、まずなによりも首都の夜空を守るべく1941年の晩秋にNo.111とNo.65、この2つのスコードロンが急いで夜間装束に身を包んだスピットファイアで夜間迎撃訓練を開始、そのまま実戦化ということになりました。機上レーダー無し、排気管の防眩処置でフィッシュテイル化、そして防眩板の造設。まあそれでも結局は昼間戦闘型のスピットファイアVbそのものなんですが。(^^;  そんな機体で待機位置を示す探照灯が真上に放つ光芒の周囲で旋回待機、敵機襲来の報でそっちへ傾けた光芒に沿って飛び、また真上光芒で待機の後、複数の光芒が捉えるであろう敵機との戦闘に入るという段取り。この『スマック』(1本マストの船)と呼称された戦術、まあ標的機でその手順を訓練さえしてなかったといいますから、どうもあまり熱は入ってない感じですが(汗)。なんだか無理があるような?

ところがどっこい案の定(?)、夜間に使うとなるとこの機種は相当に厄介だったようで、先にアップしたタイフーンよりも夜間の離発着が困難(タイフーンよりも地上での視界が悪いわ繊細な扱いが要るわ)、戦闘よりも事故での損耗が洒落にならなかったようです。だもんで短期間で再び昼間塗装に戻されてスピット夜戦の試みは消滅。その半年あるかないかの時期に、確認された夜間撃墜戦果も無いようです。

しかし、ちょうどそんな黒いスピット隊がロンドン近郊にいた時期に、独海軍によるチャンネル・ダッシュが起こりまして(1942年2月12〜13日)。シャルンホルストとグナイゼナウの2戦艦、重巡プリンツオイゲンも加わってのドーバー海峡突破回航作戦。この一件は、まさか真っ昼間にドーバーを抜けやしないだろうという思い込みが英側にあり、また視界不良や哨戒機の不具合等の齟齬が複数重なって、12日の午前中に気がついた時にはすでに多数の小艦艇と戦闘機群により厳重に護衛された独艦隊が海峡を突っ走ってたという始末。その後の迎撃も事態把握の不的確さやら指示の混乱やらで、御存知ソードフィッシュ隊壊滅の悲劇をはじめ、稀にみるドジな結果となっていくわけです。その結果、とにかく海峡に到達可能な全ての戦闘用航空機に総動員が。そこで夜の衣装をまとっていたスピット隊も、ドーバー海峡上空で独戦闘機隊との混乱大空戦に突入していったのでした。そしてこの昼間戦闘では、夜間隊もいくらかの確認戦果をあげた模様と言いますから皮肉。その春の盛りになる頃には、黒装束も脱いでたとかですから、さしものスピットファイアも夜空には縁が無いですなぁ。

さて、今回のお題はナイト塗りに加えてある事実をネタに思いきり妄想してみようという仕立て。以前にアップしたホーカー・ハンター、あのブラック・アローズを率いて航空史に名を残すロジャー・トップ隊長が、機体を黒く塗る時に「昔みた夜間戦闘機の姿が印象的で」とか言及してみえるんですな。で、前からその黒い機体は何だったろうと考えてまして。そこでふいに見つけたのが黒いスピットファイア。しかもトップ隊長が指揮したのと同じ111スコードロンということで閃いたわけで。(^◇^;) これはもう、彼がみた黒いのって同隊のスピットに違いない、そうでなきゃ流麗なラインのハンターと釣りあわないわと思い込んで妄想湧く湧くの結果であります。うひ。

さて、ハセガワの1/48キットで「箱からそのまま」作成。同社1/48スピットでもIXには多少個人的不満もある私ですが、Vについてはオーライ(←ひどいご都合主義)。夜戦仕様(といっても箱絵とデカールのみ)のも限定で出てましたが、そっちはわりと有名なダーンフォード軍曹機指定でJU◎Hのレターがグレイ、ラウンデルも通常サイズ(1941年12月時の姿。この機は防眩板も無し)なんでイマイチ、そこで小型ラウンデル/フィンフラッシュにやや小さい赤文字(これも灰の可能性ありですが)となるBrotchie少佐機を選んで各種デカールを切り貼り。実機はおそらく昼間迷彩機をスペシャルナイト装束に変えてるはず。剥がしたか塗り重ねたか不明。主翼上下のラウンデルは無しとのことですが、同隊機でわずかに主翼上のラウンデルが透けてるよーなそーでもないよーな気がする写真があったので、気持ち透けてる雰囲気で塗装。防眩板は自作ですが、もう少し左右に幅があるかも。Quickboost社のフィッシュテイル排気管@レジン製は開口はもちろんカマボコ型じゃなくちゃんと眉毛みたいな円弧を描く形のスグレモノで、これを使いたくってVbを選んでたり。

時にこのBrotchie少佐はケント州出身、あまりに個人的領域になるんで詳細は省きますが、父上と母上おふたりのお名前からファーストとミドルの御名をつけられてみえますから、大切に愛情豊かに育てられた御子息であったのでしょう。40年の夏には英本土防空戦の最中に73中隊でハリケーンを駆り、被墜戦傷の経歴も。今回設定の42年春チャンネル・ダッシュ時の1ヶ月ほど後、同年3月14日に亡くなられております(状況不明)。時に25歳。嗚呼。

フィギュアは寄せ集めと手際の悪い追加工作で(汗)。パイロットはICMの英空軍セットをベースに、少年(?)はタミヤさんの零戦についてる「見送る人々」からそれぞれ垢抜けない作業で(汗)改造。ワン公はペガサスホビーズ社の動物セットより(シェパードの設定なんでしょうが小柄過ぎるので、無理やり耳を少し曲げて駄犬の塗りで)。パイロットの両手が操縦桿を握ってない、つまり膝の辺りで押さえ込んでるはずで、そうするとエレベーターをカットして上げ舵にしたのは良くても、エルロンが多少なりとも動いてないと不自然という気も後からしましたですよ。わははは(汗)。

以下、多少の備忘メモ;
*スペシャルナイトの塗りで、ダーンフォード機写真などみますと、機首付近や翼付け根等にかなり剥離あり。脚カバー内側や脚柱も黒っぽくみえる感じ。ホイールも?
*そのナイト塗り、模型では例によって黒に青味と金味を足して多重塗りで。仕上げはガイアさんのEx系フラットが大吉。
*機体のシリアルナンバーはナイトで上塗りされてしまってて見えず。
*操縦席ドアにある脱出時用の「バールのようなもの」はV型以降の追加品。赤く塗ったのは戦後残存機とも聞きます。アクセントには塗って吉。(^^; ドア部自体はタミヤさんのキットから。同様にヘッドレストの裏につく電圧調整器もタミヤさんキットの部品で。
*キャノピー可動部はキット部品そのまま乗っけると少し浮きますから、低白化瞬間をつけてエイヤッと押さえつけながら接着。
*この隊長機のレターも灰色じゃないかしらというのは書きましたが、ラウンデルももうちょい小さくてよいかも。かなり小型(18inch径のものとのこと)。
*キャブレターインテイクに氷結防止枠がたぶん有り。一応、被覆針金で「っぽく」追加しておきました。
*史実としては、111隊の黒いスピットファイアがあの悲劇的なソードフィッシュ隊の突入援護に間に合ったという話は、たぶんありません(涙)。
*この時期の蛇の目スピットは、すでにアンテナ線は張っていないはず。
*排気管は夜間飛行時に炎もさりながら、管本体がボーっと輝いて眩惑するので、鉛丹を厚く塗って輝きを減じようということが行われた由(飛行毎の作業)。よって赤味の強い塗り方でやっておきました。

今回の大失敗は右舷のレター。左舷は小さく塗り直されたラウンデルを反映して通常よりラウンデルとレターとの間隔を大きくしたんですが、右舷でそれを失念。orz ま、実機の右舷写真は残ってないようだし、ベースに置けば裏側になることもあってそのまま放置です。(^^; 

とまあ、毎度ながらの御粗末様でした。m(_ _)m

<参考文献>

模型誌別冊や、スピットファイア関連の定番系は省略。今回特にお役立ちのものだけあげておきます。

1)スピットファイアMkVのエース 1941-1945 ;オスプレイ軍用機シリーズ34、アルフレッド・プライス著、柄沢英一郎訳、大日本絵画社、2003年刊 ISBN 4499228107
元本は1997年刊。とにかくMk.Vだけで一冊というのがステキな本で、かなり多くのネタ(笑)を見つけることもできます。Vってスピットが輝いてた時期のタイプかも。
2)Supermarine SPITFIRE Mk V ;Wojtek Matusiak著、Mushroom Model Magazine Special(Yellow Series)、2004年刊 ISBN 8391717836
蛇の目風味のポーランド系良書。本文は英語で写真多数。マルタ・ブルー機のカラー写真なんかも載ってたりする、これまたMk.Vで一冊の贅沢な仕立て。機体細部写真やカラープロファイル、はたまたシリアルリストで武装タイプ別、生産時期なども網羅する濃い内容で吉。
3)Spitfire Mk I to VI in the European Theatre of Operations ;ON TARGET PROFILES 4、Jon Freeman著、Model Alliance社、2003年刊 ISBN 1904643035
試作機からVIまでのスピットファイア、そのカラープロファイル集。多数の迷彩機に混ざって黒いのをみつけたのが、この本。ただし時々「?」な図/考証もあるので要確認。
4)高速戦艦脱出せよ! ;ジョン・ディーン・ポーター著、内藤一郎訳、ハヤカワ文庫NF、昭和55(1980)年版(元本は1977年刊)
1942年早春にドーバー海峡を駆け抜けた独艦隊、その周辺を余さず記録。まあこれを読みますと、独逸側の実行力と計画力、意志の強さ、逆に英側の不手際と面目丸つぶれっぷりがよくわかります(汗)。もっとも最後は独艦の触雷により、どうにか多少の辻褄合わせも起こるわけですが。

(2007年8月6日 初出)



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