砂漠の空高く。高高度侵入してくるJu86偵察機を迎撃すべく、Mk.VIを持ち込んではみたものの、その与圧装備が重すぎて高みに届かず(汗)、別途Mk.Vcの数機のみを現地整備隊で急遽高高度迎撃用に改造、その姿ですな。多少「?」は残るものの、一説には高度15000m(!)まであがって迎撃に成功した由。

(*この高度がホントであれば、この機体こそは後のHF仕様機を含めても、戦時中に最も高くまで上がったスピットファイアだった可能性あり)

実機の改造要領; 1)防弾板を全て下ろす(操縦席&燃料タンク周囲等複数)。 2)武装は全部おろして、あらたに12.7mmを左右各1門のみ搭載(たぶん弾薬も減らしてる)。 3)エンジンはVc通常型のを適宜チューンナップ。 4)与圧装備は無し。 5)主翼翼端は延長型。 6)ペラも4枚型。(の項目は、Mk.VIから持ってきてる可能性あり)。 7)空気抵抗を生む外板境界部等をパテ処理。 8)無線機とアンテナ柱撤去。(無線機積んだもう1機がやや低高度で同行したとのこと。軽量化攻撃機をストライカー、無線積んだ同行機をマーカーと呼称)

といったようなことをアブキールの整備隊で敢行。同様の改造機の中には、かつてネルソン艦隊が凱歌をあげたアブキール湾に落ちたのもあったようですが(汗)、このBR114機は一連の高高度迎撃作戦終了後に元のVcに戻されて再配備とのこと(その果てには、サン・テグジュペリ氏も在籍したフランス隊で消耗、除籍らしく)。

JAGUAR社製のレジン品、RAF(RAAF)乗員フィギュアの見事なこと(ヘタレな塗りはさておき)。襟元のスカーフはdonjiさんのお勧めにより水玉柄で粋に。この手の蛇の目空軍諸氏の首にお伴したスカーフについて、実は戦前大量に英国へ向け輸出されていった本邦横浜産の品がかなり混ざってるのではないかとの疑いあり。

↑葛飾柴又、団子屋さんの長男がまた旅に出るの図?(^◇^;) トロピカルな装束、しかし高高度用機ゆえに厚い防寒ジャケット(ICMのRAFクルーセットより)を肩に。ニワトリ@高くは飛べない鳥はペガサスホビーズ社製1/48。塗りが固定観念による和風鶏になってしまい、マズー。orz  プライス博士によれば与圧無し/乗員も特殊装備無しでは13700mあたりが限界で、それより上はMk.Vc改造機には無理とのことのようですが、1)機体については、英本国とエジプトとで高高度の気象条件がかなり大きく違う。 2)乗員については、後にMk.IXの非与圧改造機/電熱服のみの組み合わせで本国空域の14000m付近迎撃をわりと容易くやっている。 という2つの事項から、エジプト上空15000mのドラマが無かったとは必ずしも言い切れないよなぁと思うのがワタシ。(^^;

機首下面、エアフィルター、そしてとんがった延長翼端と四枚ペラはどれもハセガワ社のMk.VI用部品を流用。そのままでは多少寸法が合わないんですが、そこは強引に。アンテナ柱(とその後部のライトも)は撤去してますが、さすがにピトー管はそのまま。武装は50口径を2門のみ。主翼前縁から少し突出する位置に装備。この機銃だと機関部は主翼内に納まるようなんで、余計な膨らみ等は撤去武装部も含めて平滑に加工してみました。ほとんどの出っ張りを削ったので、せっかく苦労して合わせたエアウェイブ社のCウイングがあまり意味を持たなかったのはウボアー(涙)。さらにCウイングになってから主脚の角度が変わってる筈で、もう少し車輪が前に出る角度にしたほうが「らしい」ですなぁ、やれやれ。

なんつーか、それじゃT社キットではなく最初からH社Vbのキットで仕立てたほうがスムーズに行ったかも?という始末。なぜT社キットにしたかというと、レジン主翼がT社用(H社でも行けなくはないけど)、そしてアンテナ柱の無いぶん、背中が高めのT社キットのほうが印象崩さないかもとの思いで。←次にやるならH社にするべ

各所に散る薄青灰色部はパテ処理の表現。実機はもっと粗い印象。(^^;  想定では各種改造を済ませて綺麗に塗装、しかし試験飛行でもう一息抵抗を減らせればとの要望が出て再度工作、でも時間の余裕がなくてやっつけ仕事っぽいパテ模様という・・・。たぶん単純なグレーでしょうが、蛇の目的な砂漠迷彩@陸物にからめて薄青の印象をプラス。このパテ部のパターンを、もっと迷彩に溶け込むような形にアレンジしちゃうか否かで多少迷いましたが(実機のそれは相当に野暮ったい)、結局ほとんど実機写真に合わせて描き込み。スピナは白じゃなく標準のスカイ。

下面色が悩みどころ。実機写真では、迷彩のダークアースより暗調に写ってるんですな。すると通常の「明地中海青」よりも暗い色なはず。そこでイメージとしては「アラビアの夜空の結晶」とも称されるラピスラズリで行こうという仕立て。結局、塗った色はRAF規定によるところのディープスカイ〜暗地中海青に近い青(↓下写真)。ま、高い高い空の濃く深い青な印象ということで。(↑本家アフガニスタン産ラピスラズリの原石。深い青地に金砂の散り具合がステキ)

そもそも例の「ナイト」の配合に『カーボンブラック+ウルトラマリン』と出てきたそのウルトラマリン、これが本来はラピスラズリの青なんすな。『マリンブルーを超える青』じゃなく『海を越えてきた青』=ウルトラマリン。遥かな遠い昔から、聖なる青い石としてアフガニスタン産のものが有名。英国としては印度と境を接しますし、このアフガニスタンをめぐる戦争で負傷したという設定が、かのホームズ物語のワトスン博士にもあったかと。そんな青さはかつて稀少価値ゆえに、絵画領域では聖母子のみに使用され、これを称してマドンナブルーとも。金砂状の混入物をもつことから「アラビアの夜の星空、そのしずくが砂漠で結晶になった」といった伝説もあるらしく、また古代に栄華を極めた文明の遺物には、今も昔日の青さをそのままとどめる逸品も数多く。いずれにせよ、ラズリ→アズール(エイザー)は語の根源として常に青であり空であるといったところで、神聖な遥かな高みを象徴していたのでしょう。

Mk.VIの密閉風防とは違うので、可動部を素直にスライドさせてありますが、実はレジン主翼の付け根が無塗装@砂色のまま床板部品の左右奥に覗いてる誤算はナイショ。うひ〜(涙)。

(当然ながら、以下のお話は全くのフィクションです)

──198×年秋、王立空軍病院東病棟──

ぺる あるどぅあ あど あすとら
「え? なんですってジョージさん?」
「わしらのマジナイじゃよ、ヴォランティアのお嬢さん」
「まあ、それってなにか幸運の呪文なのかしらね」
「そうさな、少なくとも悪いもンじゃない。じゃがこのマジナイも今度のこの病気には効かんじゃろう」
「何を気の弱いことを、退役中佐殿。御国を守った空の戦士でしょ」
「独逸の戦闘機には負けずとも、身中の悪疾には勝てんさ。この肺には戦時中に相当無理をさせたしな。病気ばっかりはどうにも仕方ない」
「そんなこと言ってないで、さあ車椅子にうつりましょうね。酸素もこれでよしと。今日も少し外の空気を吸ってきましょうよ。気持ちのいい午後なんだし」
「毎日御苦労なこった。いや、感謝しとるんだよ。なにしろこの病室じゃ空も仰げやしない」
「そうですね。さ、行きますよ」

「ね、今日は空が青くて綺麗でしょ」
「──こんなもんじゃないさ」
「え?」
「こんなもんじゃない。この国の柔らかな自然の風景はわしも好きじゃが、青い空ってのは、本当はこんなもんじゃない。本当の青い空は、混じりっけの全くないそれは深い深いブルーで、吸い込まれるように透明な、そう、完璧な蒼穹なんじゃよ」
「まあ、そんな空をご覧になったことが?」
「もちろんじゃとも。ただし、2回だけだがね」
「昔のことですの?」
「ずいぶん昔じゃ。お嬢さんが生まれるずっと前、遠い場所でのことさね」
「聞かせていただけます?──」

──1942年秋、エジプト。アブキール近郊遥か上空──

「こちらマーカー、エンジェル400。ストライカーはさらに20上で接敵中。間もなく敵偵察機を射程内に捕捉」
「了解、状況を確認した。攻撃を許可する。敵機の高度が下がり次第、マーカーも攻撃に参加されたし」
「了解。さあ、今日こそは無事には帰らせんぞ。頼むぜ、中尉」

  ──────────────────────────

「マーカーより基地。ただいま攻撃を確認。二連射で敵機右エンジンからの黒煙を視認した。ユンカースはゆっくりと高度を下げている模様。ただし当機による追尾は不可能」
「マーカー、了解。ストライカーは攻撃を続行しているか?」
「マーカーより基地。否。ストライカーは離脱、高度を下げつつあり。機銃の凍結じゃないか?」
「了解。マーカー機はストライカーを援護して帰還せよ。敵機の追尾は地上レーダーで行う」
「マーカー了解。おっと、ストライカーが不安定だ。援護に向かう──」

──再び198×年秋、王立空軍病院──

「──で、一瞬じゃが気を失っておったようでな。攻撃に気合いを入れ過ぎて、酸素瓶の切り替えタイミングを外したんじゃよ。ふらふら降りてきたのを、僚機が主翼でこう、つっついて気付かせてくれたんじゃ。ま、九死に一生を得たってところじゃの(わしは生き残って、助けてくれた同僚は1年ほど後に戦死しちまったが)。雲の合間から見下ろす大地は地球の丸さがくっきりとわかるほどの高度で、あそこの空は実に青かったよ。純粋なブルーじゃった。昼でも星が見えるほどに深い、それは荘厳な青天井でな。攻撃して、敵のエンジンから黒い煙が出たときには、なんだかその神聖な青さ(この病院のお仕着せも、ブルーにしちゃどうじゃ?)を煙が汚したようにも思えたものさ。機銃が故障しおったし(煙のせいで攻撃をためらったわけじゃない)未確認撃墜じゃったが、どうやら海に落ちたようだと後から聞いたよ。その昔、ネルソンがフランス艦隊をとっちめたその海に落としてやったのさ。その次の機会には、敵機を十分な射程内におさめられず逃げられたがね。それでも、以後の敵偵察機の侵入は無くなったから、まずは作戦成功ではあったの。わしゃ45年のはじめにベルギーで負傷して地上勤務のまま予備役になったんで、あの青さをみたのは2回っきりじゃったよ」

  ──────────────────────────

「あら、ミズ・ロイド、おはよう」
「おはようございます、婦長」
「今日の夜明け頃に、ジョージさんが逝かれましたよ。急なことでしたけど、腫瘍から大量の出血を起したみたいで」
「え!? そうでしたか。昨日はまだあんなに──」
「急だったぶん、苦痛は少なくて済んだでしょうけどね」
「そうですね──きっと空へ、青い空へ帰って行かれたんだわ」
「あなたよくお世話してたから、感謝されてたでしょう」
ぺる あるどぅあ あど あすとら
「あら、ヴォランティアなのに、よく知ってるわね」
「ジョージさんに聞いたオマジナイなんです」
「我が空軍のモットーですよ。『艱難辛苦を越えて 輝ける高みへ』」
「そうだったんですか──輝ける高みへ──きっと高くて深い蒼穹へお帰りに──」
「そうそう、病室の側台に、あなた宛にこんなものが置いてありましたよ。患者さんから金品をいただいちゃいけないんだけど、まあ遺品みたいなもんだし、これだけは例外にしておきましょう。添えられてたメモに『青い空のかけら。ロイド嬢へ』ですって」
「まあ、よろしいんでしょうか。」
「ラピスラズリみたいね。アフガンの辺りにも駐留してみえたことがあるのかしら。ブルーのグラデーションに黄金が散ってて、それなりに綺麗だわね。あんまり質はよくなさそうな原石だけれど」
「いいえ、これはきっと本当に青い空のかけらなんですわ。あの方が昔のぼった、昼間でも星が瞬く青い青い遥かな高みの──」

*註;RAFのmotto でありそのクレストにも書かれている" Per Ardua Ad Astra " の言葉は、そのラテン語フレーズ自体が意味を持っていて無理に訳するのは無粋というか不可能というかですが、一応その筋による英訳では " Through adversity to the stars " となっているようです。直訳であれば「逆境を抜け星へ」とでもなりましょうが、starsが複数形でもあり、おそらく古語的に「空(の高み)」を指すものとも思われます。上の文中では少し飾って使用させていただきました。Star TrekシリーズのTVドラマ「Enterprise」、そのオープニングテーマの歌詞に、いかにもこの蛇の目空軍なフレーズを想起させる部分があって驚いたのはナイショ。(^^; 

とまあ、毎度ながらの御粗末様でした。m(_ _)m

<参考文献>

模型誌別冊や、スピットファイア関連の定番系は省略。今回特にお役立ちのものだけあげておきます。

1)スピットファイアMkVのエース 1941-1945 ;オスプレイ軍用機シリーズ34、アルフレッド・プライス著、柄沢英一郎訳、大日本絵画社、2003年刊 ISBN 4499228107
元本は1997年刊。この本に出てる1枚の実機写真(しかも不鮮明)が全て。(^◇^;)

2)スピットファイア ;世界の傑作機No.102、文林堂、2003年刊 ISBN 4893191047
この本の記事に、田村俊夫さんによる「成層圏のスピットファイア」というのがありまして、一連の高高度迎撃に関してまとまってて大吉。記事中にある'46年当時のAeroplane spotter誌ページ写真に、BR114と記載の写真がありますが(胴体後部は写ってない)、その姿は1)に載ってるのと違いが複数。時期によるものか?

(2007年10月9日 初出)



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