エジプトにいた英空軍第73作戦訓練飛行隊の主任教官が乗ってたというサンダーボルトMk.IIであります。真っ黒けのこの機を駆る教官にびしびし鍛えられたT-Bolt乗り連中は、ナイルが育んだ古代文明の地から遥か、インド/ビルマ方面へと飛び立っていったのでした。ということで、今回は「ビルマ航空戦特集」の番外編とも言うべき仕立てで御機嫌をうかがいます。(^^;  以下、例によってキット作成関係部はこの色で。

本機は米軍でいうところの「P-47D-30」にあたる機体とのこと。H社48のD-30/40キットを使いました。具体的にはキットにエッチング部品が付属する主翼下エアブレーキの追加、着陸灯は左翼外側へ移動、操縦席床板の波@凹凸を埋めて平らに。他はこの際、目をつぶって強行(汗)。ちなみに本機は背びれ非装備の姿で写真に収まっておりますね。あ、主輪のホイールカバーは平らざんす。

諸君、母なるナイルの地、エジプトへようこそ。

(──こんな子供達を戦場へ送り出すのか? なんてことだ)

今日から諸君は、いま目の前にあるスフィンクスほどもあるMonsterを飛ばすことになる。

(スピットに乗って華麗に戦えると思ってただろう、坊や。おあいにくさま)

このThunderbolt Mk.IIは我が植民地たる(笑)北米大陸で生産された天下無双の強力機だ。

(1機8万5千ドル、値段も天下無双だな。ポンドに換算してみろよ、魂消るぞ)

ブローニング50口径を8門、さらに爆弾1トン以上を積載することも可能である。

(弾も爆弾もタダじゃない。きっちり当てるにしかずだ、わかるな)

2300馬力に排気タービン装備、地を這う低空から紺碧の成層圏まで、全空域を縦横無尽に席捲できる。

(ちゃんと飛ばせれば、だが。そして場合によっちゃあ天国まで送ってくれるわけだ)

訓練により本機を自在に操れるようになるべし。而して敵に打勝つのである。

(8トン近い化け物を操って、必ず生き残ってママが待つ家に帰るんだぜ、坊や)

さて、開戦以来、敵が握っていた制空権を、我々はようやく取り戻しつつある。

(本国を守り抜いた我がRAFが、なんと雌伏2年あまりも! あの屈辱のシンガポール以来とはなんたる──)

しかし、いまだに敵は精強であり一分の隙も見せられない。

(油断するなよ。おかしな優越感は必ず命取りになるぞ。我がKnightなら、敵もSamuraiだ)

まず、垂直安定板に色とりどりのArrow Headを描いたOscar隊に注意。非常に危険な敵であると知るべし。

(連中の手強さといったら──。東洋の神秘だと? 冗談じゃない)

さらに、この機のようなLightning Flashを胴体に大きく描いたOscar隊もすこぶる強敵である。

(撃たれてもJUGなら丈夫だと思ってるだろ? ところが巨大なLiberatorでさえも奴等に墜されるのさ)

以上は敵のArmy Airforceの部隊である。

(やつらのNavyは太平洋中で合衆国海軍と格闘中だからな)

滅多に顔を出さないが、敵NavyがZeroの部隊を送り込んで来たらさらに用心しろ。格闘戦は禁物だ。

(とは言うものの、この中の何人がOscarとZeroとを識別できるやら)

一通りの空中機動をこなせるようになった時点で、地上攻撃訓練と同時に空戦訓練を開始する。

(ここへ来たことを酷く後悔するくらいに、主任教官であるこの私が教えて教えて教えて教え込んでやるさ)

本職の乗るこの黒い機を、敵機だと思って存分にかかってくるがいい。遠慮は無用だ(笑)。

(心底本気でやってみろ。ここで点数を稼げないなら、到底生き残れないのだから)

敵機に喰われるのは勿論、地上砲火ごときにやられることも許されない。よろしいか。

(日頃から善行を積んでおけよ。紙一重でも神の扶けと運があれば──)

いいか、我がRAFは必ず東南アジアから連中を逐い出す。諸君自身がこの翼でそれを実行する。

(USAAFはあまり本腰入れて来ないからな。議会にウケない地味な戦域は知らんってことかね)

再びシンガポールに、ホンコンに、ユニオンジャックを翻しその上空を我々がこの機体で編隊飛行するのだ。

(全員そろってだ、全員。機体は壊してもかまわん。空軍省の馬鹿はほっとけ。とにかく生き抜け)

ではこれより訓練を開始する。もちろんマニュアルは充分に読んであるだろうな? 

(そこの坊や、そんなに不安そうな顔をしないでくれないか。頼むから──)

最初にコックピットドリルからだ。各機付き長はよろしく頼む。よし、全訓練生搭乗、かかれ!

(自分で前線に出たほうがどれだけ気が楽か。神よ、祈ります。どうか彼らに御加護を)

・・・などという話があったかどうかはともかく。(^^; インド、ビルマ方面の英空軍は、かなりしっかりした訓練系を持っていたようで、例えば前に掲載した米軍P-38の「双龍飛行隊」なども現地で最初は全く戦果を揚げられず、英空軍に頼んで射撃訓練を受けてからメキメキと結果を出していったようです。本機の所属した73OTUは、インド/ビルマ方面のサンダーボルト部隊員に対する転換/作戦訓練を一手に引き受けていた隊で、エジプトに基地を。このFayidという土地ではB-24部隊なども訓練をしておったようで、結構大規模な航空基地であったようです。

で、やはり主任教官ともなると、きっと緒戦で日本陸海軍航空隊との戦闘経験がある方だったろうと思うんですね。1941年12月にはじまった敗走の経験者だろうと。ひょっとすると、ビルマの空で機体に稲妻を描いた我が50戦隊機とも空戦経験があったかも知れないでしょう。そんな風に思いつつ見れば、この機の塗りはいわば「悪役=敵機」塗装なんですね、『トップガン』で赤い星を描いたF-5みたいに。エジプトの地だとまだラウンデルの赤い丸も描かれているわけだし。

面白いのは、大戦後に六芒星の旗を持つ国の空軍で、これにとてもよく似た真っ黒地に電光(赤)を描いたスピットファイアがいたこと。どこかでつながってる気がすごくしますな。あるいは関係者が?(^^; さらに言えばこの電光/稲妻系の意匠、カナダ空軍にもみられるかと。エジプトで訓練を受けた英連邦操縦士たちの中に、後にそれらに関わった人々がいたかも、など、さらにそれら電光マークの源泉が我が50戦隊機にあったかも、ってのはもう全くの妄想ではあります。わはは。 ←いつもに増してデムパの気配が?(汗)

マーキングのお話。カルペナ社からデカールが出てまして、それを調達。フィルムやや厚、色透けなし、色調まずまず、ってな品です。銀の地肌?な電光印はデカールを参考にしてマスキングで。が、困ったのは主翼のラウンデル。上下面とも大きなラウンデルがデカールになってるんですが、実機写真みると下面はどうみてももっと小さいわけです。(^^;  そして上面はわからない。もうエイヤッと上面はそのまま貼って、下面だけ他から小さめ(胴体の同サイズ)を流用してみました。蛇の目の大家・mayonakaさんにも「ま、たぶんそれでえーでしょ」的な心強いご助言を拝領したので感謝しつつの貼り貼り。

やや前後しますが塗装関連。銀の部分はいつもの「黒→8番銀→スーパーステンレス(これのみ筆で)」の順。問題は黒ですね。実機はマットブラック=ツヤ消し黒らしい。でもそれを正直に塗っちゃうと、机上の模型としてはいかがなものかと(笑)。この黒単色塗装ってのは眼をひきますが難物で、いろんなアプローチが試みられて来たと思います。ひたすら滑らかでツヤのある黒を塗ったり、あるいはダークグレーへ振って単調さを避けたり。今回の試みは、グレーを使うとたぶん印象が「濁る」んでは?との思いから、メタリックで行こうと。いつもの多色刷り塗りですと、下地より明るくした色を基本として重ねますから、明るさ調整に白じゃなく銀を使ってみようという企て。よって順序は「黒(これのみエアブラシ)→黒に少し銀を入れたメタリックブラックでドライブラシ調に→エッジやハイライトに普通のメタリックグレイ」。さらにパネルラインには金を加えたメタリックブラックでややスミイレ調、パネルによってはうっすらダークブルーを重ねてみました。ファスナーやエッジの銀は爪楊枝を点つけ用具にしてちまちまと。最後は全体をスーパークリア(エアブラシ)でしっとりとカバー。

某海外大手の画像板(笑)に貼ったら、まずアルミ箔を貼りこんでから塗っていると勘違いした方も出た(!)ので、まずまずの効果はあったということにしておいてやってくだされ。(^o^;

操縦席内部は「ひょっとして英軍色になってるかも?(汗)」と恐れつつも、D型後期等によくみられる青みのある濃緑系(ダル・ダークグリーン)で。キャノピー可動部内の胴体上面にカーキ〜ジンクログリーン系の色を。主脚収納部などはもっとジンクロイエローっぽく黄色を強調してもよかったですね。そうそう、地面にこすりそうな増槽はアクセントに銀色で(実機写真では装備せず、押さえ部のみ見えてます)。この銀は機体の電光と違ってみえるように、仕上げをスーパーファインシルバーでさらさらと筆で、です。

写真にするとタンクが地面にくっついてみえますが(汗)、これは影のせいで、実際はわずかながら隙間が。(^^; このタンクを抱かせることで、H社キットの上下方向のボリューム感不足を補って吉。銀の電光部はデカールを型にしてマスキング/塗装しましたが、どうも実機より面積が広めに(汗)。ま、そこはそれ、それなりに見栄えがするってことにしてしまいました。←おい

主翼の上半角と捻り下げは湯で調整してみましたが、もう少しはっきりわかるようにやったほうが報われたかも〜。ヽ(゚∀。;)ノ んでも前から送風すると、ちゃんと風をはらんでゆれたですよ、この主翼。

上のほうで背景に使ったこの絵↑は何か? 実はですね、高校時代に模造紙に模写した「死者の書」@エジプトの一場面なんですね(なんで模写などしたかはナイショ)。ちょうど黒犬頭のアヌビス神が、死者の心を天秤で量ってみえますな。女神マアトの羽根よりも軽くないとアカンのです。罪科を持つ死者の心は重いのね。エジプトで黒というと、すぐにこの犬神さんが思い浮かんでしまったものですから。(^^;

こちらの置物はたしか大英博物館所蔵品のミニチュア。このすらっとした黒犬の姿が昔っから好きでして。(^^ゞ ホントは黒犬神の「ネクタイ」は金色じゃなく赤なんですけどね。それはともかく。彼(?)はアヌビスとして知られるエジプトの神、墓所の番人、冥府の審判、ミイラ作りの神。もちろん死にまつわる諸状態に寄ってくる(汗)野犬の姿からの想像なんでしょうがね。エジプトでは王族とともに犬のミイラが葬られていたり、神殿も多数、あるいは犬専用のネクロポリス=葬祭殿墓所があったりもしたようです。神話ではバラバラに切り刻まれたオシリス(後の冥界の王)をつなぎあわせてミイラにし、復活させたという、本邦の安倍晴明一条戻橋伝説@泰山府君の呪法的な物語が。

さて、ではなんでまたアヌビスなのかと。黒いだけってのも芸が無さ過ぎるわけで。(^^;  このアヌビス(Anubis)というのはギリシャ(&ローマ)名なんですな。本来の彼の名前はインプ(Inpw)。で、そのインプは死者の魂を導く、生命を司るという性格から後にギリシャでヘルメス神、ローマだとメルクリウス神と同一視されるようになったといいます。メルクリウス=マーキュリー、これはまあ良いとして(そうか?)、注目はヘルメス。Hermes、英語読みするとハーミーズでしょうか。ほうら、そこのアナタ、ピン!と来ませんか(笑)。そう、緒戦であまりにも強力な南雲機動部隊によって容易く(涙)インド洋に葬られた英海軍航空母艦「Hermes」、無念に沈んだその神の遺志は、遠くエジプトの地でインプ=アヌビスの名前の黒い神として再び冥界から甦り、東南アジア方面の敵に対し、自分がやられた天翔る武器をあたかも返し矢のごとく使って復讐を果たしたのでは──。

などとデムパなオチが今回のシメであります。ああ、ちょ〜っと(いや、かなり)苦しかったですね。わははは(汗)。

神々の世界から現実に戻ってみれば、この実戦にでる機種での訓練隊ってのは、なかなか教官達も辛かろうと思うわけです。自分たちが教える年端もゆかぬ青年たちが無事に本国、遥かな故郷の地を踏めるかどうか、ヒジョーに大きく自分たちが課す訓練にかかってきますものなぁ。自分が行くならまだしも、教え子たちを直に戦場へ延々と送りだし続けるわけで。いままで訓練部隊というものにはほとんど眼を向けて来なかったですが(汗)、今回のこれで見方が少し変わりましたさ。やはりね、それぞれの機体にそれぞれの物語があるかと。

てなところで終了であります。いつもに増してアヤシサ倍増(汗)の仕立てで御無礼いたしました〜。m(_ _;)m

追記。なんと、この黒い機体に、すばらしい掌編を拝領してしまいました。こんなことははじめてで、望外の喜びであります。

夜の吟遊詩人さんによる心に染み入るストオリイ、以下に。

バンクーバー郊外のカフェ。一人の老紳士がツイードのジャケットを羽織り、紅茶を飲む。

今日は少し肌寒いようだ。太陽は厚く被った雲の向う、その切れ目に蒼い空が覗いている。
テーブルに置いたティーカップのすぐ傍に、風に吹かれたポプラの葉が一葉、舞い落ちる。
私は遠くに在る蒼い空を静かに眺め、遥か昔、黄色味を帯びたエジプトの乾いた空を想う…

闇夜に一閃、光り輝く雷光。熾烈で苛酷な習熟訓練。そして厳しく、優しかった主任教官。
今や年老いた私も、その時は「坊や」だった。あの歴戦の猛者、教官の前では無力だった。
教官は、私を見る度に口癖のように言った。「坊や、実戦では心の隙が命取りなんだぞ!」
私より一回りも年嵩の教官は、一昨年…還らぬ人となった。そして私の妻、アイリーンも。

私は空を観る度、いつも思う。人は何の為に生まれて来たのか。何の為に命を落とすのか。
私より優秀なパイロットが多勢、志半ばで短い生涯を終え…何故か、私は今も生きている。
答えは見つからない。只、私は気付いている。「要はその時、お前が何を勝ち得たかだ!」
分かってますよ、教官。私も「任務」を果たして見せます。貴方が人生を歩んだようにね。
いつか貴方の故郷、ヘリフォードに旅行します。今迎えに来てくれた、私の孫娘と一緒に。

老紳士は帽子を被り直す振りをしながら、雲間の蒼い空に覗く教官に向かって…敬礼した。
                                      
(了)


<参考文献> 

(2004年7月26日初出)


←扉へもどる


SEO対策 ショッピングカート レンタルサーバー /テキスト広告 アクセス解析 無料ホームページ ライブチャット ブログ