相も変わらずの蛇の目な夜空を眺めるお話でして(汗)、今回は1機のみ試作されたタイフーンの夜戦型でございますね。ひとつには、当初のタイフーンが昼間戦闘機隊の主力機種にはならんだろうという流れで、その落ち着き先を探していた線、もうひとつはハリケーンを使っていた単座夜戦隊が、より一層の高性能機を必要としていた線、この両線の交錯するところに生まれたのが本機といったところ。明るい新夜戦迷彩に身を包んだ機体がホーカー社工場の飛行場に姿を現わしたのが1943年2月頃のこと。かくしてRAE(Royal Aircraft Establishment、本邦の空技廠みたいという感じ)/FIU(Fighter Interception Unit、迎撃戦闘試験隊?)/AFDU(Air Fighting Development Unit、空戦技開発隊?)などがわらわらと本機に群がって(?)、レーダー装備単座夜戦の可能性と実用化、そしてタイフーンという機種の適性を確かめようとしたわけですな。本邦参考書の記載では過去に「安定性不良で却下」だの、おおむねマイナスな表現で片づけられてますが、実はそうじゃなかったのよというお題。

さて、でもってまずタイフーンの使用法として考えられたのが「それってどうも発想からして根本的に間違ってないかね?(汗)」という例のタービンライト計画。ハリケーンの性能ですとそろそろ敵新型機を捕捉困難になる恐れもあり、かといってスピットファイアの夜戦隊では離着陸や飛行時の事故が多発してて全然ダメ(脚間が狭いのと、どうやらスピットファイアのほうがタイフーンよりも地上姿勢での前方視界がかなり悪いっぽい)、そこで登場した本機。ところがどっこい、サーチライトを積んでるハボックの速度とタイフーンのそれが違いすぎ、敵機を照らすハボックの巡航速度が撃つタイフーンの失速スピード付近、逆にタイフーンの速度に合わせてハボックが飛ぶと、最高速度を維持し続けないといけないので燃料消費が・・・(大汗)という始末。これはいかにも無理でしょうということで、単座にレーダー積んで(ハリケーンに積むと抵抗増大による性能低下著しくアウト)単独で飛ばせてみようと。

タービンライトの件は、より高速なモスキートにライトをと悪あがきが続きますが、さておき。「敵機に背後からライトを照射できる位置につけるなら、そこで照らすより撃ったほうが理屈に合うのデハ?」という大多数の正論(夜戦隊からは罵詈雑言)もさておき。←おそらく、というか全くの推論ですが、どうも夜空での同士討ちが相当にあったらしく、その回避策で「照らして確認」な意味もあったのでしょうかねぇ、とか思いますが。カニンガムさんはじめ夜戦現場にしてみれば、理解不能なリソースの無駄遣いだったかと。←でもその「愚行」が後世に興味深いネタを提供してくれたわけで

↑主翼に突き出す4門の20mm、そして白黒の識別帯が塗られた主翼下には増槽もナイトで塗られて存在感出しつつ下ってるので、「タイフーン」の名で想起される迫力をそのまま顕現したような姿かと。

使用キットはハセガワの1/48。カードア型扉のついてる初期型を使ってますが(本機は方向舵に翼外作動棹がのびる最初期型? 尾部は既に補強板あり)、ファンボローに居た当時の主翼下面だけに識別帯@白黒入れてる姿をえらんだので、ペラが4枚になっております(水滴風防型キットから流用)。主翼内燃料タンク部に電子装置を詰め込んだので、そのぶんの燃料を翼下増槽で確保。これは本機の運用では投下を考えてない仕様(その増槽はSAM出版社のレジン部品)。塗装は真っ黒けから抜け出した時期の新たな夜戦迷彩、ミディアムシーグレーにダークグリーンの地図状パターン。主翼前縁の黄色い識別帯は無し(アンテナ整備の関係か?)。排気管はシュラウド(覆い)のあるタイプで、ハリケーンやスピットファイアの夜戦仕様にみられる防眩用の胴体部板はついておりません〜。スピナは4枚ペラにした時点で少し機体の灰色より明るい印象。スカイの可能性も?(機体色でもかなり明るくしたグレー、それをさらに明るくして塗っておきました) ダークグリーンはブリティッシュレーシンググリーンの印象を匂わせて(笑)やや青味のある方向で。いずれの色も2〜3階調での重ね塗り。

レーダーアンテナは真鍮線で。左主翼の着陸灯部にはライトを潰して発信アンテナ。武装はBウイングそのままで20mm四門。搭載レーダーはAI Mk.VI。その表示器はコックピットの射撃照準器のすぐ右斜め下に装備。完成当初はIFFを胴体下のブレード式と、左右水平尾翼と胴体を結ぶライン式と両方装備してますが(これも同士討ち恐怖のため?)、ラインのほうをやがて外してる模様。ついでに言えばキャノピー後部から天を指す無線アンテナ柱からもラインは伸びてないはず。

さてそんなアンテナ類、実際は棒じゃなく板状、それも紡錘断面のヤツだとは思うんですが、0.4mm棒材から均等な板型にできる方法を思いつかずに棒のまま(汗)。折角なのでカードアを開いた姿で、天井もちょいと浮かせて。←どっちも中途半端なわけだが   排気管は覆いの中に本体もちらっと見えるのが実機。さすがに再現できずで開口のみ。(^^; マーキングはデカールで寄せ集め。

さて、たった1機のみで終了してしまったからには、評価もたいしたことは無かったんだろうと思うと、これがハズレ。実はタイフーンという機種は、夜間の離着陸も飛行も容易(脚間距離の大きさと視界の良さが効いてるはず)、さらに単座で操縦士が見なきゃならないレーダーについても、飛行性能低下も許容範囲だし接敵用電子装置として実用に耐えるとの評価がでてるんですな。4枚ペラにして震動を減らせばなお具合ヨロシとの結論。んじゃなんで実戦化されなかったかと言えば、そこにはモスキート夜戦の登場があるわけです。やっぱり二人乗ってて、操縦に集中できるパイロット、その傍らでレーダーを読む相棒というのが余裕もあり柔軟性もあり。逆にいえばモスキートなかりせば、タイフーンで夜戦隊が組織されてたんでしょうね。単座ったって、現に米海軍はコルセアやヘルキャットのレーダー搭載単座夜戦型を実戦で有効に使ってるわけだし。英空軍の組織も戦中に改編されてはいますが、そもそものファイターコマンド、ボマーコマンド、コースタルコマンドの時点で、夜戦機材のうちボーファイターはファイターとコースタルの両コマンドで、モスキートはファイターとボマーの両コマンドでそれぞれリソースを獲りあいしてますから、戦闘機隊が単座機にある程度のこだわりを持ってたのも理解はできますが。ちなみに、テンペストも夜間のV1迎撃でなんらかの電子装置(AI Mk.VIの改良型?)を使用した機がある気配を読みとれる文章もあるんですが、真偽も詳細も不明。その装置を使ったテンペストがあったとしたら、やはりFIU所属機か501Sqの機体と思われますが、今回は宿題として残します。(^^;

さらにタイフーンでは「アブデュラ」のコードネームで敵の地上レーダー電波を受けてその位置を察知、攻撃してしまうという計画もあったようですが(ノルマンディ上陸の前に敵レーダーを潰しておきたかった)、まっすぐ向かってくるタイフーンを見て相手は気付いて電波を切っちゃうのでダメだったとも。(^^;  電波で探し、その電波を逆に探知して相手を察知、なら電波封止したりアルミ箔で撹乱したり、周波数変えるわ敵装置を利用するわという鍔迫り合いも、欧州の西の空で繰り広げられたわけですが、ある時期のドイツ側などでは、逆にRAF機みたいには電波装置を使わない東部戦線赤軍航空機のほうが捉まえにくくて厄介だぁとの認識も。(^^; ナンダソリャ

<ある黄昏時の点景>

さて、今日も夕暮れどき。冬はすとんと日が落ちますが、夏のはじめの今ごろは、長い長い黄金色のたそがれが続いて、ようやく日没となります。もう2100時をだいぶ過ぎましたでしょうか。そして夜が来ます。夜こそは、私達の時間。闇こそは私達の世界。

私どもの家系は記憶以前の遥かな昔から、だいだい国王陛下のもとでこの御国を守ってまいりました。一族の中には戦火に倒れたものもおります。つい先日も私の弟が負傷いたしまして、任務を離れて療養中という次第。そんな風に身を挺してでも侵入者の影を暴き出し、追いつめて撃ち払うのが本分でございます。

それにしても、さる'40年の夏はきびしいものでした。あの頃は、大陸のジャガイモ食いの連中が今にも海峡を越えてこの御国に上陸してくるとの噂もしきり、盛んに空からやって来ては爆弾をばらまいて行く奴等の憎らしいことったら。そこかしこの基地で滑走路の穴ぼこを幾つか修復したと思うと、すぐさまそれ以上の穴ぼこが再度うがたれるといった始末。私どもも毎日走り回っていたものです。国中がちからを合わせて、ようよう一息つけるようにはなりましたが。

昼間の大空襲、その大波が途絶える頃、今度は夜の襲来が盛んになりましたっけ。暗い夜空から突然降ってくる災厄の塊というのも恐ろしいものです。従姉はロンドンである晩に行方不明、叔父はコヴェントリーで消息を絶ってそれっきり。でも、ある夜を境に潮の流れも変わったようには聞いております。本当かどうか、なんでも夜空を自在に飛び回る、人参食いな猫の眷族が我が戦闘機隊搭乗員にいるらしく。

そんなこんなで、今夜もそして明日もまたきっと警戒の日々。油断は禁物、隙をみせてなるものですか。今は'40年の夏に飛び回っていたあの流麗な機体とは違って、ずいぶんいかつい戦闘機が警備の対象になっておりますが、まあ美しさには欠けていても、逞しく雄々しいものはありますね。反攻に向かっていこうという意志の時期としては、そのほうが存外心強いかも知れません。なんだか垢抜けない翼のあちこちにツンツン飛びだしてるのが、ある機械の「アンテナ」とかいうヤツだそうで、猫の血筋じゃない乗員でもその機械のお陰で夜空を駆け巡れるのだとか。

ま、人間ってのはそんな機械に頼らなくちゃいけないんですから、面倒です。そこへ行くと私どもは自慢の鼻と耳と、そして邪悪なものの気配を感じることのできる本能とで、機械なんぞ無くったって闇の中でも随分遠くから良からぬものの接近を知ることができるので助かります。さあそろそろ宵闇が拡がってまいりました。今宵も巡回にでるとしましょうか。ねぇ、少尉、この頭の上の鉄鍋をどけてくれませんか? どうにも重くってかないません。ん〜、うちの弟が爆発のコンクリート片くらって怪我してから用心し過ぎじゃないですか? ダメ? だいたい『アイザック』って名前だって、これでも私レディなんですけど。いくら林檎投げると追いかけて行くからって── う〜ん、クンクン。

フィギュア;立像はEXTRA TECH社レジン品の首を少し角度つけて。坐像とワン公はおなじみICMのRAFセットから。犬の鉄帽はタミヤさんの48英兵士セットより。添えたお話はもちろんフィクション@妄想。(^^;

以下は無駄な覚書;

RAE。この英國の航空関係技術研究機関はファンボローに本拠をおいてまして、当時の独総統はやがて容易に英本土へ上陸占領できると踏んでいたため、その研究成果をも手にしようと、幾分なりとも空襲目標から外すことを命じていたらしく。情景ベースのネーム板、向かって右の紋章がファーンボロウのもの(各実験隊のエンブレムがみつからなかったんですもの)。Royal Aircraft Establishmentoは、やがてRoyal Aerospace Establishmentと名称を変え、さらにDRA (Defence Research Agency)に吸収されてDERA (Defence Evaluation and Research Agency) の名前になり、そのDERAは2001年に分割されてQinetiQ社(?、Britain's largest independent science and technology company だそうな)とdstl部門(国防省機関、Defence Science and Technology Laboratory)に。時の流れは休まずして。

犬。いわゆるゴールデン(またはイエロー)レトリバーの名で知られる鳥猟犬は、19世紀以前の英國起源犬。ちなみに、この犬種が極めて重要な役割を果たす物語としてディーン・R・クーンツ氏の「ウォッチャーズ」という半ばSFな小説がありますが、このお話は自分的に古今東西マイベスト小説群の最上位を狙うやつ。アインシュタインの名前なその犬の運命やいかに。 ←この本はヒコーキとも戦時とも全く関係ないので御用心  だもんで、今回のタイトルや犬嬢の名前はその小説に遠く由来するところ。ヽ(゚∀。)ノ

ただし重力と縁の深いお方の名前は、「アイザック卿」として夜戦隊士には仇敵とも目された由。(重力に逆らう飛行士としちゃ当然のなりゆき?)

その当時、すでにRAFでは警備犬を訓練する「学校」を創設、効率的に運用していたと。様々な戦記や戦闘日誌に登場する犬たちのいくらかは、同校出身者(犬?)とのこと。ベトナム期の米軍等とは違って、戦中の蛇の目方面写真では、警備に最適と思われる独シェパードがあまり見受けられないのは気のせい? それともやっぱり?(^^; 総統のとこのがアレですしなぁ。

夏季のたそがれ時の件。例えばロンドンで、夏の日出/日入が0442時/2124時、冬のそれが0805時/1609時だったりしますから、夏と冬とで太陽が出てる時間の差が本邦標準よりもかなり大かと。特に夏季の日没は遅いので、ゆるゆると長いたそがれ時が続くはず。これが頭に入ってないと、あちらの夜戦話の中には「ん?」となっちゃうところもありますな。と書いてて、サマータイムの指摘を頂戴しましたから、さらに話は複雑?(^^;

追加の覚書;

ペガサスさん情報により、R7881号機のその後が判明。単座夜戦としての実用性は認められつつもモスキート夜戦の実用化により却下されたため、本機も44年の夏には電探装備等を取り外されてHonileyの3 TEU(Tactical Exercise Unit)に移管されて、普通のタイフーンとしてご奉公した模様。夜戦試験時代のロンドン方面実戦試験中も公式には会敵していないようなので、機体の一生を通じて敵機と相対することは無かったかも。

夜戦試験中に後方警戒レーダーも装備した可能性あり。モスキートの尻尾下部にみる涙滴凸型な形状と同じ系統か。今回机上に再現した塗装の時点では尻尾に何も付いてないと思われ。

カードアなのにペラが4翅のタイフーン、他にDN340もあり。この機体もRAE方面での装備テスト(武装他)機。

そんなことで、毎度おそまつさまでした。m(_ _)m


<参考文献>

1)Model Aircraft Monthly Vol.5, Iss.12 ;SAM出版社月刊誌、2006年12月号 今回のあれこれはこの雑誌の特集なくしては有り得ないという仕立て。たった1機作られたタイフーン夜戦試作機の実機写真複数、その機体装備詳細と評価過程あれこれをまとめた記事。これ1冊で今回はほとんど終了、あとの参考書は「あるとよさげ」程度?(^◇^;) ちなみに表紙はハリアー。
2)ホーカー・タイフーンとテンペストのエース;オスプレイ軍用機シリーズNo.30、クリス・トーマス著、岡崎宣彦訳、2003刊(原本は1999版)、ISBN 4499228042 おなじみオスプレイ社のシリーズ本。
3)ホーカー・タイフーン/テンペスト 世界の傑作機No.63;文林堂、1997刊、ISBN 4893190601 おなじみ「世傑」の1冊。定番ですな。オスプレイも世傑も、テンペストと抱きあわせ(?)なのが不満といえば不満。うひ。
4)スケールアヴィエーション Vol.16;隔月刊誌2000年11月号 巻末にある「Aero Detail 3/4」がタイフーンIBなので結構貴重。機体の細部がカラーで見られる本ってのが、意外や他にはないのです。排気管、ラジエター、ペラとスピナ、脚、動翼、コックピット等等等。
5)Hawker Typhoon;Chris Thomas著、WARPAINTシリーズNo.5、Hall Park Books社 よく見ると著者は先にあげたオスプレイ本と同じかた。なるほどな。出版年不明(記載なし?)、うちのはつい最近の再版本だったかな?
6)夜間戦闘機 ー戦闘日誌1941〜1945−;J・ハワード・ウィリアムズ著、渡部辰雄/宇田道夫訳、1977刊、早川書房(元本は1976刊、「NIGHT INTRUDER」) 掲示板でNACAさんに教えていただいてすぐ古書を手配。これが大当たりの良書。ボー、モシー、ウェルキン、タイフーン、テンペストにブラックウィドウ等々盛り沢山に登場しつつ、電波装置の実戦化過程と夜戦の進歩していく流れを追うのに好適。
7)RAF Police Dogs on Patrol;Steve Davies著、Woodfield Publishing社、2006刊 手配しましたが実はまだ届いておりません〜(汗)。スミマセヌ。

もちろん他にネット検索で出てくる記事や写真なども参考に。

(2007年6月26日 初出)



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